運送業【顧客分析】1年で売上2倍、2年で売上3倍を達成

更新日:2026.06.5 |事例

 運送業界は激動の時代に突入していて、ちいさい運送会社はどんどん廃業しています。A社も影響をモロに受けて、売上が急落してしまいました。
 激動の運送業界にあって、1年で売上2倍、2年で売上3倍を達成したA社の業績改善のポイントをご紹介します。

運送業界の中のA社、業績改善の方針

 会社間の取引をBtoBと言います。会社と消費者の取引はBtoCです。Bはビジネスの頭文字で会社などの事業者のこと、Cはコンシューマー、一般のお客さんです。
 BtoBでは、取引によって売買したものは運送します。お客さんがお店に買いにきて買ったものを持って帰るのとはちがうところです。運送会社A社はBtoBで取引されたものを運送する会社です。A社自体もBtoBの会社です。


 事業の特性で運送業者では、売上の大きさがトラックの台数、ドライバーの数で決まってしまいます。なのに人手不足でドライバーが不足している。ドライバーが減って売上・利益が減少してしまいます。


 トラックやドライバーの数で売上の大きさがある程度決まってしまうということは、利益を残すためにはどうしたらよいでしょう。
 ふたつ考えられます。ドライバーを採用してトラックを購入し、仕事量を増やすことで売上を大きく増やす方法がひとつ。売上が増えて利益が増える、わかりやすい。もうひとつは、運送料の単価を上げて仕事量をそのままで売上はすこしあがり、かかる費用がもとのままだから利益が増えるという方法です。単価をあげるだけなら、費用は増えません。


 ひとつ目の方法は、業界全体でドライバーが不足している状況では無理です。景気が悪くなってものが動かなくなり仕事量が減ったときに、ドライバーやトラックがあまって困ったことになるリスクを抱えることにもなります。
 ふたつ目の方法はよさそうです。単価を上げる、値上げですから、取引を断られる場合が考えられます。ですが、ちょうどネット通販が普及して運送業者の仕事が増えている時です。コロナが重なって、さらにネット通販の利用が高まりました。ほかの運送業者は仕事に追われていて、取引先にとってはほかの運送業者に乗り換えることがしにくい状況です。


 方針は決まりました。値上げして利益率を高めることです。安い仕事は受けない、やめる、ということです。

顧客分析の実施

 A社には多くの取引先があり、多くの仕事を受注している先もあれば、たまにしか受注がない先もあります。多くの仕事を依頼してくれる取引先は、単純に考えたらお得意さんですよね。
 でも、A社の社長に話を聞いて、取引先ごとどころか、取引ごとに運送代がちがうとわかりました。となると、どの取引先がA社の利益に貢献してくれていて、どの取引先が利益に貢献してくれていないか、気になってきます。


 顧客分析という方法が役に立ちそうです。顧客ごとに、今回は取引ごとですけれど、売上と利益率を調べれば現状がわかるはずです。さらに、取引先ごとに集計して散布図という種類のグラフにします。エクセルでデータを処理してグラフを作成できます。散布図の作成はむづかしいというほどではありませんが、慣れている専門家の領域になります。
 グラフの作り方の詳細は省略して、グラフをお見せします。


 グラフは下のようになりました。これはある1ヶ月の取引データをもとに作成したグラフです。1個の点が取引先1社を表しています。横軸が売上、縦軸が利益率です。取引先名と売上高の数字は隠してあります。


 このグラフからわかることはいろいろあります。まず、右に飛び出ている取引先は、上得意先と言ってよいことです。受注が多いため売上が大きく、利益率30%くらいで利益の面でも貢献してくれています。


 問題は利益率の低い取引先です。10%未満の会社があります。しかも、2番目に売上が大きい取引先が10%未満になっています。取引ごとのデータをみると、2番目の取引先では、赤字になっている取引までありました。いっぱいはたらいても利益がのこらないため、取引を見直すべき先です。
 売上がちいさく利益率が低い取引先は、A社にとって重要ではないことになります。暇だったら仕事を引き受けてもよいくらいですね。


 A社の社長はこのような取引の状況を把握していなかったようです。説明を受けて驚いていました。専門家が苦労してデータ処理しグラフにすることでやっとわかったことですから、普段の業務の中では把握するのは無理です。
 注目は、利益率が高く売上がちいさい2社です。業績改善の方針は利益率の低い取引先に対する値上げ交渉でしたが、もうひとつ加えてよいことがわかります。利益率の高い会社から受注を増やすことです。


 調べないといけないのは、なぜ取引先2社は利益率が高いのかです。受注がすくないから価格を気にしない先だったということもあるでしょう。
 2社に共通する特徴がありました。2社とも、ある業界に属する会社でした。A社はもともとその業界の仕事を受けることで事業をはじめていて、得意分野でした。丁寧に運んでもらわないといけない商品のため、運送代をケチるわけにいかない業界です。
 ということは、同じ業界の会社に営業をかけて新規顧客を獲得できたら、業績改善におおいに貢献してくれそうだとわかりますね。

具体的な業績改善策

 顧客分析をして、現状の取引先の位置づけができました。具体策は4種類できました。
 売上トップの会社には、慎重に値上げ交渉です。現状では、値上げするならほかに頼むと取引をやめられてしまっては痛いということで、慎重に進める必要があります。
 売上2番目の取引先は見直しが必要です。大幅な値上げに応じるなら継続してもよく、その場合は売上も利益も増えてよい結果につながります。
 売上がちいさく利益率が高い2社は受注を増やすように営業をかけます。受注が増えれば利益に貢献してくれます。
 最後に、新規開拓先として、利益率の高い取引先2社の属する業界に営業をかけます。


 方針を決め、具体策を実行した結果どうなったかとういうと、じつは取引先が大きく入れ替わりました。売上の大きい2社はともに取引終了となりました。2番目の取引先は値上げに応じず取引終了、1番目の取引先も問題のある先だとわかり、A社は取引をやめました。
 得意分野の業界へ営業をかける策については、その業界の景気が悪くなり既存顧客からの受注が減ってしまい、実施に至らないままとなりました。

 売上の大きな2社と取引終了し、利益率の高い取引先の受注を増やすことでしばらく耐えていたところ、A社の社長のところに大手業者から取引したいという話が舞い込みました。当初は提示価格が低く、利益率の低い仕事は受けない方針でしたからお断りしました。その後、同じ大手業者がどうしても依頼したいということで価格をおおきく上げてきたものですから了承し、大手から単価の高い仕事を大量に受注できるようになりました。


 結果的に、1年で売上が2倍に、2年で3倍になりました。具体策はそのままでは業績改善に影響しなかったのですけれど、成功のポイントは、定めた方針をつらぬいたことです。おかげで高い単価で大手から仕事を受注できました。